書評ブログ

日々の読書の記録と書評

ケーキの切れない非行少年たち(宮口幸治)

[楽天]ケーキの切れない非行少年たち [Amazon]ケーキの切れない非行少年たち 著者は長年小児の発達障害外来や少年院の矯正医官を勤め、非行少年と接する機会が多かった。その経験から、非行少年の認知能力の実態や認知能力と再犯との関係の考察、そして…

栗山大膳(森鴎外)

江戸時代前期、福岡藩黒田家で起きたお家騒動(黒田騒動)の起こりと顛末を取り上げた短編小説。黒田騒動は江戸時代の三大お家騒動*1の一つ。 江戸時代には黒田騒動を扱った歌舞伎がいくつも作られたというが、現代では栗山大膳、何それ、おいしいの?という…

みちの記(森鴎外)

鴎外が明治23年8月、信越本線沿いに信州山田温泉に旅行したときの日記。 信越本線は一部できてはいたものの碓氷峠付近は馬車鉄道で峠越えに難儀したり、変な半可通の髭男に辟易したり、大雨で鉄道が壊れて帰りに苦労したり。 洋服を着ているとどこでも優遇さ…

この日のために(幸田真音)

池田勇人・田畑政治という2人の人物を経糸、昭和初期から高度成長期の経済史とオリンピック史を緯糸に、1940年東京オリンピックの挫折と1964年東京オリンピックの成功を爽やかに綴る。 作者は金融の世界からキャリアをスタートしただけあり、資金調達の話題…

カズイスチカ(森鴎外)

casuisticaというのは、症例集とか、臨床報告という意味のようである。 主人公の花房が医学部を卒業する頃、開業していた父親の代診をしていた思い出を語る形で展開する。おおかた鴎外自身の駆け出しの思い出が背景にあるのだろう。 父親は最新の外国の医学…

ヴェノナ 解読されたソ連の暗号とスパイ活動(ジョン・アール・ヘインズ/中西輝政監訳)

マンハッタン計画(アメリカの原爆開発プロジェクト)の参加者にはソ連側に寝返り情報を漏洩した者がいて、ソ連はその情報をもとに短期間で原爆開発に成功した、という歴史は以前からよく知られている。 アメリカは、アメリカ国内のソ連のエージェントから本…

代替医療解剖(サイモン・シン/エツァート・エルンスト)

医学の歴史を見ると、それまでの常識を覆す治療法を臨床試験によって証明することで発展を果たしたことが時々あった。 それでは、現代医学ではその効果が解明されていないとされる代替医療は、本当に有効なのだろうか? 鍼・ホメオパシー(私はこの本で初め…

「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく東大読書(西岡 壱誠)

偏差値35から2浪中に読書法に目覚めて東大に合格、現在は書評サークルの代表を務める著者が、本を読み込む方法論を紹介している。 ターゲットの読者層は、有意義な読書を通して知識をしっかり吸収したい人、それから「地頭の良さ」に憧れを持つ人か。 例えば…

睡眠負債 『ちょっと寝不足』が命を縮める(NHKスペシャル取材班)

毎日少し寝不足気味、休日になると朝なかなか起きられない、日中眠いときは少し昼寝して目を覚ましている、自分はショートスリーパーだと思っている…。そんな人は体に「睡眠負債」が積み重なっている。睡眠負債が積み重なると、認知症やガンの原因になること…

あそび(森鴎外)

官吏と作家の二足のわらじを履く木村の一日を描いた小品。…と言うとそれまでだが、二足のわらじを含め木村の設定の多くが鴎外自身に重なることから、官吏として、作家として、自身の仕事の様子や心持をこの作品で仄めかしたように思われる*1。それがタイトル…

虞美人草(夏目漱石)

夏目漱石の文壇デビュー作。デビュー作で力が入っていたのかどうかは知らないが、まさに組んずほぐれつの濃厚なドロドロストーリー。 美貌を鼻にかける藤尾が、二人の男性を翻弄する立場を楽しんでいるうちに自ら陥穽に嵌まる。その中で多くの対立項的な「二…

坑夫(夏目漱石)

許嫁がいるにも関わらず、その妹と恋愛関係に陥りそうになったことに苦に家出した主人公。丸一日歩いていると、ポン引きに儲かる働き口が在ると誘われ、ついて行った先は銅山だった。 銅山の街は都市から隔絶され、独特の習慣や風俗が広がる空間だった*1。ま…

彼岸過迄(夏目漱石)

漱石の言い訳めいた能書きから始まる。大病直後無理を避けて元旦まで執筆をやめていただの、1月から彼岸までに新聞連載を終わらせるつもりだから安直に彼岸過迄というタイトルにしただの。 大学は出たけどプー。誇大な冒険を妄想するばかりで就職活動も飽き…

文鳥(夏目漱石)

漱石が 鈴木三重吉にそそのかされて文鳥を飼った一部始終を描いた短編。 最初はせっせと世話をしながら忙しい執筆活動の癒やしにするのだが、だんだん世話に飽きるというお決まりのパターンがリアル。そして、文鳥の姿の描写がとても細やかで感心する。 やっ…

薤露行(夏目漱石)

(楽天)倫敦塔・幻影の盾※薤露行収録 (Amazon)倫敦塔・幻影の盾※薤露行収録 「かいろこう」と読む。 薤とはらっきょうのことで、薤の葉の上に置いた露は消えやすいところから、人の世のはかないことや、人の死を悲しむ涙を薤露という。転じて、葬送のとき…

夢十夜(夏目漱石)

〈楽天ブックス〉夢十夜 〈楽天kobo〉夢十夜 〈Amazon〉夢十夜 「こんな夢を見た」で始まる短い夢語り10編。日常生活の延長線上にある夢、少し幻想的な夢、さまざま。僭越ながら各編にタイトルをつけるとこんなところ。 第一夜 死んだ女を100年待つ 第二夜 …

三四郎(夏目漱石)

三四郎(楽天ブックス) 三四郎(楽天kobo) 三四郎 (Amazon) 熊本から上京して東大に入学した三四郎が、学問に、交友に、恋愛に、学生生活を謳歌する青春グラフィティ(2/3は恋愛譚だが)。 東大に入学することになった三四郎は、暑い盛りに電車で上京する*…

こころ(夏目漱石)

高校の教科書にも載っている小説。教科書は後半の1/3に当たる「先生」の遺書が中心で、「先生」と「私」の出会いや「私」の家族の話は大半がカットされているのだが。。。

門(夏目漱石)

宗助と御米夫婦は崖の下に建つ小さな借家でひっそりと暮らす。夫婦仲はとてもよいのだが、過去の事件がもとで、親戚付き合いも疎遠がちだった。子宝にも恵まれない。...

道草(夏目漱石)

外国留学から帰ってから大学に勤め、教育に、執筆に多忙な健三。妻とは喧嘩が絶えないばかりか、養父母が金をたかりに来て(養父母が二人がかりでにたかるのではなく、養父と養母がそれぞれたかりに来るのである)、気が休まらない。そうこうしているうちに…

野分(夏目漱石)

裕福で明るく結婚を控えた中野と、シャイで堅物で胸を病む高柳。二人は大学の文学部で同期だった友人である。そして、頑固さゆえに生徒(その中に高柳もいた)や同僚にいじめられて教壇を追われた後、今度は雑誌編集で糊口を凌ぎながら文壇に新たな一ページ…

女系家族(山崎豊子)

代々女系(長女が婿を取って家督を継ぐ)で続いてきた大阪船場の老舗問屋の相続ゴタゴタストーリー。これまで何度もドラマ化されている。 山崎豊子は、初期の大阪船場の商人モノと後期の社会問題や社会現象を題材にしたドロドロ劇が多いのだが、これは両者を…

幻影の盾(夏目漱石)

イングランドの伝説時代を題材に取った、ある騎士の戦いと恋の幻想的な物語。日本人が登場する漱石のメジャーな大作とは雰囲気が異なる。「倫敦塔」に近いか。 見慣れない漢語が多い。辞書を引き引きゆっくり味読しよう。

プログラミングの心理学 25周年記念版(ワインバーグ)

IT

1970年代のIT業界で、プログラマーの心理的な側面とパフォーマンスの関係に焦点を当て、ひいてはあるべきマネジメントの姿を考察した古典。 それから25年たっての(1998年)著者のコメントが章ごとに丁寧に付されている。今でも通用するところが多いと思う。 …

花紋(山崎豊子)

大阪河内長野の大地主の家に生まれた総領娘が恋に短歌に生きようとするも、あまりに封建的な家に縛られ、陰鬱のうちに過ごした一生を描く。

大地の子(山崎豊子)

楽天ブックスはこちら 終戦時に中国に取り残された孤児と日本に帰還した父親の数奇な運命を、壮大なスケールで描いた感動作。 ソ連と満州国国境に近い日本人開拓村にいた松本勝男は、1945年8月9日のソ連侵攻で両親と生き別れ、一緒に逃げた妹あつ子ともやが…

警視庁公安部・青山望 報復連鎖(濱嘉之)

警視庁の各セクションに散らばる同期同教場4人組が裏社会と対決するシリーズ第3作。

花のれん(山崎豊子)

(楽天)花のれん (Amazon)花のれん 大正から昭和初期に、お笑いのプロモーターとして一世を風靡した女性の強烈な生涯を描く。吉本興業がモデルとも。 日露戦争直後、大阪の呉服屋のぼんぼんに嫁ぐ多加。しかし夫は甲斐性なしで、毎日落語見物に出かけては…

警視庁公安部・青山望 政界汚染(濱嘉之)

Amazonはこちら 警視庁公安部の青山望たち警察学校の同期カルテットが、政財界・暴力団・外国の闇に斬り込むシリーズ第2作。 都内に複数の病院・介護施設を擁する有数の医療法人の理事長が、日本公正党の重鎮で厚生族の大澤純一郎*1の引きで参院選比例区に出…

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ(大栗博司)

楽天ブックスはこちら 第一線の物理学者が、今日の物理学の最重要テーマ『重力』について、最先端の話題を巧みな比喩を織り交ぜながらわかりやすくかつ正確に解説してくれる。 重力の研究はニュートンがリンゴを見て重力のアイディアをひらめき、惑星の公転…

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