書評ブログ

日々の読書の記録と書評

文学

みちの記(森鴎外)

鴎外が明治23年8月、信越本線沿いに信州山田温泉に旅行したときの日記。 信越本線は一部できてはいたものの碓氷峠付近は馬車鉄道で峠越えに難儀したり、変な半可通の髭男に辟易したり、大雨で鉄道が壊れて帰りに苦労したり。 洋服を着ているとどこでも優遇さ…

カズイスチカ(森鴎外)

casuisticaというのは、症例集とか、臨床報告という意味のようである。 主人公の花房が医学部を卒業する頃、開業していた父親の代診をしていた思い出を語る形で展開する。おおかた鴎外自身の駆け出しの思い出が背景にあるのだろう。 父親は最新の外国の医学…

あそび(森鴎外)

官吏と作家の二足のわらじを履く木村の一日を描いた小品。…と言うとそれまでだが、二足のわらじを含め木村の設定の多くが鴎外自身に重なることから、官吏として、作家として、自身の仕事の様子や心持をこの作品で仄めかしたように思われる*1。それがタイトル…

虞美人草(夏目漱石)

夏目漱石の文壇デビュー作。デビュー作で力が入っていたのかどうかは知らないが、まさに組んずほぐれつの濃厚なドロドロストーリー。 美貌を鼻にかける藤尾が、二人の男性を翻弄する立場を楽しんでいるうちに自ら陥穽に嵌まる。その中で多くの対立項的な「二…

坑夫(夏目漱石)

許嫁がいるにも関わらず、その妹と恋愛関係に陥りそうになったことに苦に家出した主人公。丸一日歩いていると、ポン引きに儲かる働き口が在ると誘われ、ついて行った先は銅山だった。 銅山の街は都市から隔絶され、独特の習慣や風俗が広がる空間だった*1。ま…

彼岸過迄(夏目漱石)

漱石の言い訳めいた能書きから始まる。大病直後無理を避けて元旦まで執筆をやめていただの、1月から彼岸までに新聞連載を終わらせるつもりだから安直に彼岸過迄というタイトルにしただの。 大学は出たけどプー。誇大な冒険を妄想するばかりで就職活動も飽き…

文鳥(夏目漱石)

漱石が 鈴木三重吉にそそのかされて文鳥を飼った一部始終を描いた短編。 最初はせっせと世話をしながら忙しい執筆活動の癒やしにするのだが、だんだん世話に飽きるというお決まりのパターンがリアル。そして、文鳥の姿の描写がとても細やかで感心する。 やっ…

薤露行(夏目漱石)

(楽天)倫敦塔・幻影の盾※薤露行収録 (Amazon)倫敦塔・幻影の盾※薤露行収録 「かいろこう」と読む。 薤とはらっきょうのことで、薤の葉の上に置いた露は消えやすいところから、人の世のはかないことや、人の死を悲しむ涙を薤露という。転じて、葬送のとき…

夢十夜(夏目漱石)

〈楽天ブックス〉夢十夜 〈楽天kobo〉夢十夜 〈Amazon〉夢十夜 「こんな夢を見た」で始まる短い夢語り10編。日常生活の延長線上にある夢、少し幻想的な夢、さまざま。僭越ながら各編にタイトルをつけるとこんなところ。 第一夜 死んだ女を100年待つ 第二夜 …

三四郎(夏目漱石)

三四郎(楽天ブックス) 三四郎(楽天kobo) 三四郎 (Amazon) 熊本から上京して東大に入学した三四郎が、学問に、交友に、恋愛に、学生生活を謳歌する青春グラフィティ(2/3は恋愛譚だが)。 東大に入学することになった三四郎は、暑い盛りに電車で上京する*…

こころ(夏目漱石)

高校の教科書にも載っている小説。教科書は後半の1/3に当たる「先生」の遺書が中心で、「先生」と「私」の出会いや「私」の家族の話は大半がカットされているのだが。。。

門(夏目漱石)

宗助と御米夫婦は崖の下に建つ小さな借家でひっそりと暮らす。夫婦仲はとてもよいのだが、過去の事件がもとで、親戚付き合いも疎遠がちだった。子宝にも恵まれない。...

道草(夏目漱石)

外国留学から帰ってから大学に勤め、教育に、執筆に多忙な健三。妻とは喧嘩が絶えないばかりか、養父母が金をたかりに来て(養父母が二人がかりでにたかるのではなく、養父と養母がそれぞれたかりに来るのである)、気が休まらない。そうこうしているうちに…

野分(夏目漱石)

裕福で明るく結婚を控えた中野と、シャイで堅物で胸を病む高柳。二人は大学の文学部で同期だった友人である。そして、頑固さゆえに生徒(その中に高柳もいた)や同僚にいじめられて教壇を追われた後、今度は雑誌編集で糊口を凌ぎながら文壇に新たな一ページ…

幻影の盾(夏目漱石)

イングランドの伝説時代を題材に取った、ある騎士の戦いと恋の幻想的な物語。日本人が登場する漱石のメジャーな大作とは雰囲気が異なる。「倫敦塔」に近いか。 見慣れない漢語が多い。辞書を引き引きゆっくり味読しよう。

倫敦塔(夏目漱石)

Amazon(kindle) 楽天kobo 主人公が見物に行ったロンドン塔で、かつてここで非業の死を遂げた人物の悲哀の姿を想像し、目の前の風景のように活写した幻想的な作品。漱石自身がロンドン留学中にロンドン塔を見物し、この記憶を下敷きにしたのだろう。

満韓ところどころ(夏目漱石)

Amazon(kindle版) 楽天kobo 漱石の友人中村是公(満鉄総裁)に招かれた満州旅行の紀行。日本の都会とは雰囲気の違う大連の街並みや広大な満州の田園風景、そして戦後間もない日露戦争の激戦地旅順の様子がくっきりと描かれている。作中で何度も謳われる当…

明暗(夏目漱石)

Amazon 楽天ブックス 新婚の由雄とお延。しかし二人はどこかよそよそしく、しかも派手好みがたたり家計は火の車。由雄が手術費用を実家に無心するに至ってついに父親もキレ、援助を渋るようになる。お延が奔走し、お延の叔父の援助を受けることになったのだ…

草枕(夏目漱石)

Amazon 楽天ブックス 写生旅行に出た主人公と宿の女主人の恋愛物語(東京帝大の教壇で'I love you.'を「月がきれいですね」と訳すよう指導した漱石にとって、これは官能小説とすらいえるのではあるまいか)。主人公が語る漱石の芸術論も興味深い。

坊っちゃん(夏目漱石)

(Amazon) 坊っちゃん(楽天) 無鉄砲な坊っちゃんが数学教師として松山に赴任して始まる痛快ストーリー。ストレートな人物描写と江戸っ子らしい坊っちゃん自身のナレーションが小気味良い。

吾輩は猫である(夏目漱石)

Amazon 楽天 旧制中学の英文教師(『リードル』という)苦沙弥先生の飼い猫の目を通し、西洋文明に染まった当時の中流階級を皮肉を込めて面白おかしく描く。職業といい病歴といい、苦沙弥先生には漱石自身が投影されている。余裕派の面目躍如。 《Amazon》吾…

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