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坑夫(夏目漱石)

許嫁がいるにも関わらず、その妹と恋愛関係に陥りそうになったことに苦に家出した主人公。丸一日歩いていると、ポン引きに儲かる働き口が在ると誘われ、ついて行った先は銅山だった。

銅山の街は都市から隔絶され、独特の習慣や風俗が広がる空間だった*1。また新入りの主人公をいじめる荒くれ者やひねくれ者の坑夫もいれば、早く帰ったほうが良いと諄々と諭す坑夫もいた。事情があって坑夫になった者も多かった。また、過酷な坑道の見学で体力を極限まで使い果たし、精神が生と死の間で両極端に振れるような体験もした。そんな異空間での体験と心の動きが、刺激的な表現(昔の小説でなければとても出版できない)を交えながら、微に入り際を穿つように語られる

結局、誰から見ても坑夫は勤まりそうにない主人公は、健康診断で病気を「発見」される。医者も、一目見て、経歴も確認してこいつには坑夫は無理と思い、診察するふりをして引導を渡したのだろう。

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*1:葬式をジャンボーという辺り、北関東から福島県周辺だろう。足尾か日立か?当時は足尾銅山事件の余波でこの小説もセンセーショナルな受け止め方をされたことだろう。

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