漱石の言い訳めいた能書きから始まる。大病直後無理を避けて元旦まで執筆をやめていただの、1月から彼岸までに新聞連載を終わらせるつもりだから安直に彼岸過迄というタイトルにしただの。
大学は出たけどプー。誇大な冒険を妄想するばかりで就職活動も飽きて止めた山師的な敬太郎が周囲の人々の内面深くに立ち入ってゆく。
最初は駅員だがアウトドア派の森本の冒険談に魅せられながら、振り回される。明るい話はここまでで、この後はどんどん暗く深い人間の内面にはまって行く。
その後、就職活動のために友人須永の叔父を訪ねるところから、須永と、もう一人の叔父の松本、いとこの千代子たちの内面の傷やエゴに触れてゆくようになる。
須永と千代子の間の陰にこもった恋慕・強烈な嫉妬・歩み寄れない誤解、そして背景にある須永の出生の事情が、これでもかというほどネチネチネチネチと一分の隙もない緻密さで展開される。そして、キレた千代子と須永の修羅場は、明治時代でもこんなことがあったんだと思うほど千代子がストレート。
何人もの登場人物が語る物語が緩やかな関係を持ちながらオムニバス風に積み重ねられる形式。昔の小説だと思って読んでいると、おっ、という意外な印象を受けた。
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