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書評ブログ

日々の読書の記録と書評

暗闇商人(深田祐介)

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ロンドンの語学学校を舞台に起きた北朝鮮による日本人拉致をモチーフに、水面下に広がるテロ組織のネットワークとその犯罪を赤裸々に描く。

夫の早逝によりシングルマザーとなった佐久間浩美は、夫の伯父佐久間健一の計らいで息子を連れてロンドンに語学留学する。同じ学校に日本の商社から派遣された安原と恋仲になるが、そこには日本赤衛軍のメンバー水田も身分を隠して潜入していた。水田は、日頃から接点のある北朝鮮工作員から浩美の北朝鮮への拉致に協力するよう指示される。
浩美は罠に嵌められてピョンヤン行きの飛行機に乗せられ、北朝鮮に拉致されてしまう。
ここから、浩美、安原、そして賢一たちの、奪還に向けた戦いが始まる。

奪還劇の紆余曲折、浩美と安原の恋の行方、次第に明らかになる浩美が拉致された本当の理由(これが呆れるほど理不尽な理由である)…、時間があったら一気に読んでしまう。読みかけにすると気になる。また、拉致や身代金誘拐に巻き込まれる危険が案外身近にあることに気づかされ、背筋が寒くなる。
もう一つ特徴的なのは、北朝鮮工作員が話す日本語のなまりが忠実に再現されていることである。濁音が半濁音や清音になる、「し」が「ち」になる等。従って「ビジネス」は「ピチネス」になる。一見ユーモラスなようでいて、実は著者のメッセージかもしれない。

本作では、北朝鮮日本赤軍・フィリピンのゲリラ勢力などが水面下で連携し、拉致・武器売買・身代金誘拐・航空機爆破…と、数々のテロ行為を働く構図が示されている*1。今では、北朝鮮とイランの間でのミサイル取引も明らかになり、北朝鮮がテロ組織のハブとなっていることは誰でも知っている。しかし、本作が最初に出たのは1990年代前半である。大韓航空機爆破事件の直後だが、北朝鮮朝鮮総連極左勢力の日本社会への隠然たる影響力は現在より強く、当時「暗闇」の圧力があったとしても不思議ではない。よく出版できたものだと思う。

※文庫本は入手しにくい模様。電子書籍がお薦め。

《Amazon》暗闇商人〈上〉(深田祐介 文春文庫) 暗闇商人〈下〉 (深田祐介 文春文庫)
《楽天ブックス》暗闇商人(上)(深田祐介 文春文庫) 暗闇商人(下)(深田祐介 文春文庫)

*1:日本赤衛軍とそのメンバーのモデルは日本赤軍であろう。ロンドンを舞台に北朝鮮が日本人を拉致した事案も実在する。フィリピンで商社の支店長がゲリラに誘拐されたことも実話である。一方で、北朝鮮による拉致で発生直後に奪還に成功した事例はないし、拉致被害者がはるばるフィリピンで日本人誘拐に加担させられたという話もない(公にされていないだけかもしれないが)。取材事実とフィクションが巧みに織り交ぜられており、その境界の判断が難しい。

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