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花のれん(山崎豊子)

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大正から昭和初期に、お笑いのプロモーターとして一世を風靡した女性の強烈な生涯を描く。吉本興業がモデルとも。

日露戦争直後、大阪の呉服屋のぼんぼんに嫁ぐ多加。しかし夫は甲斐性なしで、毎日落語見物に出かけては、落語家と芸者遊びに興じる日々。家計は多加が支えていた。夫が信用取引で大損を出した日、多加は夫と話し合い、夫が好きな落語の寄席の経営に乗り出す。

夫は初めのうちこそ遊び仲間の伝手で落語家のスケジュール確保に大いに貢献したのだが、外に愛人を作り、酒好きもたたり38歳の若さで愛人宅で腹上死を遂げる。絵に描いたような遊び人の末路である。

そこから番頭のガマ口*1と二人三脚で、ひたすら事業拡大に走り、しまいには通天閣まで買収するのだが、戦争に向かう世相の影が次第に忍び寄る。

事業一筋で遮二無二生き、時には札束で横面をはたきながら大阪のシンボル通天閣まで買収した多加の姿に、戦後焼け野原から復興し、バブル期にロックフェラーセンターまで買収した日本経済を彷彿とさせる。もちろん、本作の初出は1958年、高度経済成長の前であり、そのような意図はもとよりないのだが。
また、安来節ブーム・関東大震災・ラジオの登場・桂春団治エンタツアチャコの登場と、上方演芸裏面史としても面白い。

*1:口が大きいので「ガマ口」。最後まで本名が明かされず「ガマ口」で通っている。

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