江戸深川の鍼灸の名人染谷が、その腕で貧富貴賤の分け隔てなく病や怪我に悩む人々を救い、救われた人々が染谷に影響され社会に対し教育に救恤にと善行をなしてゆく人情物語。
あかね空のような泣かせる(泣かせを意識した)ストーリーを熱いと表現するならば、本作は遠赤外線ヒーターのようにジワっとした温かさといえる。染谷はすでに還暦を迎え名人の技量と声望を確立しているため、周囲との接し方や影響の仕方に角の立たない老練さ、余裕があるためだろう。
体裁は1~2章程度の長さの独立したエピソードが集められた形で、どの順番で読んでもあまり違和感を感じないのではないか。反面、全体を通して眺めると、醤油屋の内紛の顛末が描かれていないなど完結していない箇所もあるので、もやもや感が残るかもしれない。
なお、鍼や灸の効果がドラマチックに描かれているが、フィクションだと思って医学的なところはあまり突っ込まずに読もう。