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天地明察(冲方丁)

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江戸時代初頭に貞享暦への改暦を実現し、江戸幕府の初代天文方になった渋川春海の活躍を描く。

日本の暦は862年に唐から伝来した宣明暦に依ってきたが、江戸時代になると誤差が積み上がり、現実の太陽の運行(春分など)と2日の差が出ていた。これを精密な天文観測と算術を駆使して貞享暦に改暦したのである。

本因坊家と並び、将軍の御前で囲碁を見せる囲碁方安井家に生まれた二代目安井算哲。囲碁方といってもあらかじめ打ち合わせた棋譜の通りに打ち、将軍に解説をつけて見せるというヤラセみたいなもので、算哲は将来に閉塞感を抱いていた。むしろ趣味の天文観測や算術に熱心で、どんな難問も一瞬で解く算術の大家関孝和に憧れとコンプレックスを抱く。どこか抜けたところがあるが素直で優しい奴。天文や算術の世界ではあえて渋川春海という別名を名乗っていた。

ある日、囲碁方ながら帯刀を許され(本人にとっては強要され)、大老酒井忠清囲碁の相手を務めさせられることに戸惑いを覚える。

その後、算術での挫折体験、北極星の高度で各地の緯度を測量するプロジェクトでの成功体験を経て精神的に成長した春海は、会津藩主保科正行から改暦のリーダーとなることを命じられる。現代に喩えればはやぶさを飛ばすプロジェクトリーダーのようなものである。帯刀はこの伏線であり、大老をはじめ春海と出会った数々の人物が一致して春海をリーダーに推していた。それは春海の人物と実績が認められた証だったが、長い苦闘の始まりでもあった。

囲碁の世界では悶々とする春海だが、測量や改暦では持ち前の素直さから使命感を抱きつつひたむきに打ち込む姿は爽快である。また、春海自身は天文や算術のバックグラウンドを持つ技術者だが、リーダーとして技術に偏らず、改暦が社会・経済・政治にもたらす影響をしっかり見定め、広い視野に立って改暦を進める。関孝和との邂逅の場面で春海に湧き上がる怒りは、まさにリーダーの思いである。そのようなリーダーとしての春海のあり方にも共感を覚えた。

Amazonでは下巻の評価が低めだが、下巻のハイライトにはリーダーとしての春海のあり方と、算術を極め後世に足跡を残した関孝和vs技術を結集し現在の社会を変えた渋川春海の対比、協力を推したい(上巻に比べると地味だが)。

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